不倫相手に慰謝料請求すると、「慰謝料は払いません」と言われるケースがよくあります。ときには逆切れされることもありますし無視されるパターンも少なくはありません。
不倫された被害者(請求者)にしてみれば「なぜ不倫したのに払わないのか?」と憤るのも当然です。
あまりのことにショックを受けて精神的に落ち込んでしまう方もいらっしゃいます。
このように不倫相手が「慰謝料を払わない」と主張する場合、さまざまな理由がありパターンごとの対処が必要です。
今回は不倫慰謝料請求をしたときに相手から「慰謝料を払わない、払いたくない、払えない」といわれた場合の対処方法を状況別にご紹介していきます。
- 不倫相手から「慰謝料を払わない」と言われた場合の対処方法
- 不倫相手に支払い義務がない場合の対応
- 「お金がないので払えない」と言われたら?
不倫相手の「慰謝料を払わない」には9つのパターンがある
不倫相手が「慰謝料を払わない」という場合、以下のような9つのパターンがあります。
払う必要がないと思っている
世の中には不倫がさほど悪いことだと思っていない方がいます。
もちろん法律的には違法ですし慰謝料の支払義務もあるのですが、そういったルールを知らないし知ろうともしないタイプの人です。
そういう相手に慰謝料請求をすると「なぜ慰謝料を払わなければならないの?払いません!」と言われかねません。
感情的に払いたくない
不倫は悪いこととわかっていて慰謝料を支払う義務があるのも知っているけれど、感情的に「払いたくない」タイプです。
たとえば既婚者の男性から「妻からひどい扱いを受けている。君だけが癒しだ」などと言われて不倫していた女性は「奧さんが悪いから不倫関係になった」と思い込んでいるケースが多々あります。
そんなときに妻から慰謝料請求をされると「そっちが悪いのになぜ慰謝料を払わねばならないの?納得できない!」と思って「慰謝料を払いません!」と主張します。
そもそも不倫は不貞行為にあたるのにも関わらず、関係に及んでいるのですから…。ルール以外の感情で物事を捉えてしまう性格なのでしょう。
そもそも不倫していない
相手が慰謝料の支払を拒絶する場合「そもそも不倫関係がない」ケースがあるので注意が必要です。
たとえば夫や妻のLINEのメッセージなどを見て仲が良さそうな異性と「不倫しているに違いない」と思っても、実際にはプラトニックな関係であったりそもそも男女の愛情がなかったりするケースが少なくありません。
不倫関係がなかったら当然相手は「慰謝料は払いません」と断ってくるでしょう。
ただし実際に不倫しながら「不倫していない」と嘘をつく相手もいるので、だまされないよう要注意です。
相手を既婚と知らなかった
既婚者と肉体関係を持ったら、基本的には「不倫」になります。また、不倫のことを法律上は「不貞」といいます。
不貞は故意または過失にもとづく違法行為なので、不貞した人は慰謝料の支払い義務を負います。
ただ不倫相手が「交際相手が既婚者である」と認識していなかったら、不貞にならない可能性があります。
よくあるのが、既婚者の男性が未婚女性に「僕は独身です」と言ってだまして交際を開始して肉体関係を持つパターンです。
このような場合、女性側に過失がなかったら不法行為にならないので慰謝料は発生しません。
女性側は「既婚と知らなかったので慰謝料は払いません」と言うでしょう。
ただ当初は既婚と気づかなかったとしても途中で既婚と気づいたらその時点で不法行為が成立します。
また最後まで既婚と気づかなかったとしても「当然気づくべき状況」があったなら過失が認められて不法行為が成立し、慰謝料支払い義務が発生する可能性があります。
無理矢理性交渉をされた
既婚者と性関係をもったら、基本的には「不貞」となり慰謝料が発生しますが、ただ不貞で慰謝料が発生するのは「故意や過失によって男女関係を持った場合」です。
既婚者が未婚者に無理矢理性交渉を強いた場合には、強要された側には故意も過失もなく不法行為が成立しません。
極端な例を挙げると「既婚者が強姦した場合」強姦された被害者は「不貞」したことになりませんし慰謝料も発生しません。当然ですよね?
配偶者が無理矢理性交渉を強要した場合に「不倫」と思って慰謝料請求したら、相手は「慰謝料は支払いません」と断ってくるでしょう。
時効が成立している
不倫の慰謝料請求権には「消滅時効」が適用されます。
具体的には「不倫の事実と不倫相手を知ってから3年」が経過すると慰謝料請求権が消滅し、請求できなくなってしまいます。
不倫が行われてから長時間が経過すると、相手からは「時効が成立しているので慰謝料は支払いません」と主張される可能性があります。
ただ時効については「不倫の事実と不倫相手を知ってから」3年をカウントします。
「不倫があってから3年間」ではありません。
不倫が発覚した時期が遅い場合や、不倫相手の素性を調べるのに時間がかかった場合には、不倫から4年、5年が経過していても慰謝料請求できる可能性があります。
始めから婚姻関係が破綻していた
不倫で慰謝料が発生するのは「不倫によって夫婦の婚姻関係が破綻したから」です。
婚姻関係が破綻すると配偶者は大きな精神的苦痛を受けるので慰謝料が発生するのです。よって「不倫前から婚姻関係が破綻していた場合」には不倫の慰謝料が発生しません。
たとえば夫婦が不仲となって別居している場合、別居後に別の異性と交際したとしても基本的には慰謝料が発生しないのです。
実際、不倫相手に慰謝料請求すると「当初から夫婦関係が終わっていたと聞いていたので慰謝料を払いません」と主張されるケースが多々あります。
ただ既婚者は不倫相手と交際するとき「妻とは終わっている」「夫には愛情がない」などと説明するのが常套手段です。
そんな説明をしていても家族関係は普通にうまくいっている、というケースが多数あります。そのような説明を鵜呑みにして不倫関係になったとしても、慰謝料は発生します。
相手が「婚姻関係が破綻していると聞いていた」と言っても慰謝料を免除する必要がないケースがほとんどです。
払うお金がない
不倫相手に慰謝料請求をすると、相手が「悪いとは思うけれど、払うお金がないので申し訳ないけれど払えません」と主張するケースがよくあります。払いたいけれど支払能力が足りないので払えないパターンです。
無視するケース
慰謝料請求をしたとき「払わない、払えない」などの返事すらしない不倫相手がいます。態度で「払う気がない」と伝えてくるパターンです。
内容証明郵便を送っても受け取り拒否で返ってきますし、普通郵便を送っても無視されます。電話をかけても出ませんしメールやLINEを送っても完全に無視されます。
不倫相手から「慰謝料を払わない」と言われた場合の対処方法
もしも不倫相手に慰謝料請求をして「払わない」「払えない」と言われたらどうすれば良いのでしょうか?
次に不倫相手が慰謝料を払わないと言ってきた場合の対処法について解説します。
法的な慰謝料支払い義務があるかないかを検討
まずは不倫相手に「慰謝料支払い義務」があるのかどうか、法的に検討しましょう。
支払い義務があるならば「払いたくない」では済まないので支払いを求める必要があります。
一方、法的に支払い義務がないならそれ以上の追及は諦めねばなりません。重要なのは以下のような事実確認です。
本当に不倫しているのか(男女の肉体関係があるか)
そもそも配偶者と相手との間に肉体関係がなければ慰謝料は発生しません。
確実に肉体関係を明らかにするため、不倫で慰謝料請求する前には確実な不倫の証拠を入手しておくべきです。自分で充分な証拠を集められない場合、探偵事務所を利用して「不倫現場」を押さえた調査報告書を入手しておきましょう。
浮気相手に故意や過失があるか
男女関係があっても浮気相手に故意過失がなければ慰謝料請求は難しくなります。
たとえば相手が「既婚者であることを知らず、そのことに過失もない場合」には請求できません。一方「知らないことに過失がある場合」には請求可能です。たとえばあなたの夫がいかにも既婚者らしい振る舞いをしているのに相手が過失で気づかなかった場合などには慰謝料が発生します。「知っているか知らないか」だけではなく「過失の有無」についてまで検討する必要があります。
また相手が「強要された」と主張するケースでも慎重な検討が必要です。嘘をついている場合もありますし、当初は半ば強要であっても途中から合意のもとに不倫関係となるケースもあります。そういったケースでは慰謝料請求可能です。
不倫前から夫婦関係が破綻していないか
不倫前から別居している場合には、基本的に慰謝料が発生しません。ただ「単身赴任」や「親の介護のための別居」などのケースでは別居しても婚姻関係が破綻していないので、その間に不倫すると慰謝料が発生します。
また少々夫婦仲が悪くなっていても、同居して普通に婚姻生活を営んでいるなら「夫婦関係が破綻した」とはいえません。相手が「奧さんとは終わっていると聞いていた」と主張しても慰謝料請求できるケースが多いので、慎重に検討しましょう。
時効が成立していないか
慰謝料請求権に時効が成立したらもはや請求は不可能です。ただ時効のカウント開始時期によっては不倫から長期間が経過しても請求できる可能性があります。「不倫と不倫相手を知ったときから3年間」が経過しているかどうか、検証してみてください。
支払い義務がある場合のパターンごとの対処方法
不倫相手に法的な支払い義務があるのに「払わない」と言われたときの対処方法は「払わない理由」によって変わります。以下でパターンごとにみていきましょう。
払う必要がないと思っているパターン
不倫が違法行為であることを認識せず、払う義務がないと思っているパターンです。このタイプの相手には、まずは法律の説明をする必要があります。
「不倫は法的に違法行為とされており慰謝料が発生する。相場は100~300万円程度。だからあなたには払ってもらう必要があるし、払わないなら裁判する可能性もあります」と告げて相手に理解させ、支払いをさせましょう。
感情的に払いたくないパターン
支払い義務があるのはわかっているけれど「奧さんが悪い」などと考えて感情的に払いたくないパターンです。
この場合、「そうはいっても違法行為なのだから不倫した以上は慰謝料を払ってもらう必要がある。払わないなら訴訟も検討せざるを得ない」などと告げて説得し、払わせましょう。
不倫していないと嘘をついている
本当は不倫しているのに「不倫していない」と嘘をつかれたら、不倫の証拠を提示しましょう。
たとえば性交渉をしているときの画像や動画、夫(妻)が書いた不倫の自認書、探偵の調査報告書などが効果的です。
はっきり不倫の証拠を提示されたら、相手も認めて慰謝料を払わざるを得なくなります。
既婚者であることを知らなかったと主張
「既婚者と気づかなかったので慰謝料を払わない」と言われたら「そうはいっても途中からは気づいていたはず」「結婚指輪をしていたので知っていたはず」「通常は気づくはずの状況であった」などと反論して、支払いに応じさせましょう。
無理矢理性交渉されたと主張
「無理矢理性交渉を強要された」といわれた場合、状況に応じて「無理矢理ではなかったのでは?」「途中からは無理矢理ではなくなっていたはず」などと反論して慰謝料請求を求めましょう。
時効が成立していると主張
「不倫から3年以上経っており慰謝料請求権は時効にかかっています」と言われたら「私が不倫を知ったのは〇〇頃であり、そのときからはまだ3年経っていません」「あなたのことを調べるのに大変な時間がかかり、〇〇頃にようやく判明したのでまだ3年は経過していません」などと反論して慰謝料を求めましょう。
始めから婚姻関係が破綻していたと主張
「不倫が開始したときすでに夫婦は終わっていた」と主張されたら「実際にはその頃も家族で旅行に行ったり子どもの幼稚園、学校のイベントに一緒に参加したりしていたので破綻していません」などと具体的な状況を伝えて反論し、慰謝料を求めましょう。
不倫相手に支払い義務がない場合の対応
法的な観点から検討した結果、不倫相手に慰謝料支払い義務がなかったら、請求はあきらめましょう。支払い義務のない相手に無理に請求をすると「不当要求」となってしまいます。
相手からは「脅迫、恐喝」などと言われるリスクも発生します。
特に相手が強姦や悪質なセクハラの被害者のケースでは、むしろこちらが加害者側なので丁重に謝罪して夫にきちんと慰謝料を支払わせましょう。
相手が逃げる場合の対応
不倫相手に慰謝料請求をして無視されたらどうすれば良いのでしょうか?
内容証明郵便を受け取ってもらえなかった場合には、普通郵便で同じ内容のものを送ってみましょう。相手が中身を見て連絡してくる可能性があります。電話やLINEなどを知っているなら、そちらで連絡してみましょう。
それでも連絡がつかない場合には、裁判所を利用するしかありません。「支払督促」または「訴訟」を起こしましょう。
支払督促をすれば、相手が対応しない場合に差押えの権利を認めてもらえます。
長い時間と労力のかかる裁判をしなくても相手の給料や財産を差し押さえられるので、相手の資産内容や勤務先を知っているケースで便利です。
相手が反論してくる可能性があるなら通常の訴訟を起こしましょう。ただ訴訟は大変難しく素人では対応が困難となるので、弁護士に任せるようお勧めします。
「お金がないので払えない」と言われたら?
不倫相手から「申し訳ないけれどお金がないから支払えない」と言われた場合には、以下のように対応してみて下さい。
減額を認める
相手は、請求された慰謝料の金額が高額すぎて払えないと言っている可能性があります。その場合、請求額を払える限度まで減額しましょう。
たとえば300万円の請求をしているなら200万円や100万円にまで減額すれば、相手も払える可能性があります。
分割払いを認める
減額しただけでは払えない場合、分割払いを認めるのも1つです。減額せずに分割払いする方法もあります。たとえば300万円請求して「お金がないから払えない」と言われたら「月々5万円ずつ5年間に渡って払って下さい」と言ってみましょう。相手に収入があれば受け入れる可能性があります。
当初に頭金を入れてもらうのも有効です。
たとえば当初に50万円支払ってもらい、残り250万円を分割で払ってもらうなどすれば回収の確実性が上がり、分割払いの期間を短くできます。
分割払いを認めるときの注意点
分割払いを認める場合、必ず慰謝料支払いの合意書を「公正証書」にしましょう。
公正証書があれば、途中で相手が支払をしなくなったときにすぐに相手の給料や預貯金などを差し押さえられるからです。
公正証書がなかったら、不払いが発生したときに訴訟などを起こさねばならず手間と時間がかかります。
公正証書を作成するには、不倫相手の協力が必要です。相手を説得して公証役場に来てもらい、不倫慰謝料の公正証書を作成しておきましょう。
不倫相手に慰謝料請求する前にしておくべき重要なこと
不倫相手に慰謝料請求をすると「払わない」「払えない」と反論されるケースが少なくありません。そのような状況に備えるには、事前に「証拠集め」をしっかり行っておくべきです。
たとえば不倫相手と夫(妻)が親しげにデートして性関係を持っている現場を探偵事務所に依頼して押さえておけば、「性関係を強要された」「不倫していない」などと言い訳されることはありません。
相手も「証拠がある以上、裁判されたら負ける」と思うので、きちんと慰謝料を支払おうとするでしょう。
不倫された配偶者は精神的に大きく傷つくので、慰謝料請求は当然の権利です。不当な慰謝料不払いを許さないため、ぜひ今回の内容を参考にしてみてください。