婚約中に相手が浮気している場合、結婚していないため慰謝料は認められないと思ってしまう人もいます。しかし、実は、客観的に婚約が成立していると認められる状況であれば、慰謝料を請求できる可能性があります。信頼を裏切られたという精神的苦痛に対する損害賠償が検討されることも少なくありません。
このように、夫婦ではないからといって軽視できないのが、婚約中の浮気の大きな特徴です。浮気を疑ったらまずは必要な証拠を集め、冷静かつ早めの対応を心がけましょう。
この記事では婚約中の浮気の慰謝料について解説します。
- 婚約中の浮気で慰謝料請求できる条件
- 婚約中の浮気の慰謝料相場
- 婚約中の浮気を理由とした慰謝料請求方法
婚約中の浮気は慰謝料を請求できる

婚約中の浮気であっても状況によっては慰謝料を請求できます。慰謝料請求にあたっては、婚約の定義や婚姻関係との違いなどを把握しておきましょう。
そもそも「婚約中」とは?
婚約中とは、文字通り結婚の約束をしている状態を指します。法律上、婚約は将来の結婚を約束した契約とみなされる場合があり、夫婦としての婚姻関係こそまだ成立していないものの、ある程度の法的保護が及ぶ可能性があります。 例えば、両家の親に正式な挨拶をして日取りを決めている、結婚式の式場を予約している、結納を済ませている、婚約指輪を交わしているなど、客観的な事実がそろえば婚約中と判断されやすいでしょう。一方で、何となく「将来結婚できたらいいね」という口約束の段階ではまだ婚約として認められないことがあります。
婚姻関係との違いに注意が必要
よく知られているように、夫婦間のいわゆる浮気や不倫は、民法770条に定められた不貞行為と評価されやすく、高い確率で慰謝料請求が認められます。(※1)
一方、婚約中は夫婦としての完全な法的地位には達していないため、不倫ほど明確に不法行為が成立するとは限りません。 しかし、婚約とは将来的な結婚に向けた契約関係であり、当事者同士の信頼関係に基づく大切な約束でもあります。そのため、婚約期間中に一方が第三者と肉体関係を持つなどの重大な背信行為があった場合には、不法行為または債務不履行として慰謝料請求が認められる可能性があります。
婚約中の浮気で慰謝料を請求できる理由

婚約中の浮気で慰謝料を請求できる理由は主に次のとおりです。
- 婚約は法律における契約だから
- 不貞行為が不法行為にあたるから
婚約は法律における契約だから
婚約は単なる口約束ではなく、先述のとおり、法的にみれば「将来結婚をするという合意」に基づく契約と考えられます。契約である以上、一方が重大な背信行為を行えば債務不履行や不法行為が成立する余地があり、その結果として損害賠償(慰謝料)を請求できる可能性が出てきます。
婚約成立の客観的な証拠としては、結納や式場の予約契約書、親族同士の顔合わせなどが挙げられるでしょう。こうした事実が揃えば、婚約関係が法的に存在していたと判断されやすくなります。また、交わした指輪の領収書や写真などの物的証拠も有効です。
不貞行為が不法行為にあたるから
夫婦間の浮気や不倫は広く不法行為として扱われ、離婚時などに慰謝料が発生することは比較的知られています。同じように、婚約中であっても不貞行為によって相手に重大な精神的苦痛が与えられれば、不法行為として賠償責任が認められます。
ただし、婚約中の不貞を主張する場合は、法的に婚姻関係が成立しているわけではないため、保護される利益が夫婦関係に比べると限定的と考えられる場合もあります。その結果、請求できる慰謝料の金額も夫婦間の不貞に比べるとやや低めに評価される可能性もあるのです。しかし、浮気の態様や婚約の状態が深刻であれば、相応の金額が認められることも珍しくありません。
慰謝料を請求できる条件
婚約中の浮気であってもすべてのケースで慰謝料を請求できるわけではありません。慰謝料を請求できるのは次のような条件が揃っている必要があります。
- 婚約が成立している
- 相手の行動が不貞行為にあたる
- 相手に過失がある
婚約が成立している

先述のとおり、まず婚約の成立が大前提になります。双方が結婚の意思を固めているだけでなく、社会通念上、近いうちに正式に結婚する状態であると認められることが必要です。 具体的には、次のような事実があれば婚約関係が認められやすいといえます。
- 結納を済ませている
- 指輪の交換をしている
- 両親への挨拶や顔合わせを済ませている
- 結婚式場や披露宴会場の予約をしている
- 具体的な結婚式の日程が決定している
相手の行動が不貞行為にあたる
慰謝料の根拠となるのは、あくまで法律上の不法行為である必要があります。単なる食事やドライブなどの浮気疑惑の段階では、裁判所が不貞行為と認める可能性は低いでしょう。
一般的に不貞行為とは、男女が肉体関係を伴う関係を結ぶことを指します。ただし、裁判所がどこまでを不貞と見るかは証拠の内容にも左右されます。肉体関係を裏付ける写真や動画、ホテルに入るところの証拠などがあれば、不法行為が成立する可能性は高まります。
相手に過失がある
過失という言葉は、法律上、注意義務を怠ったといったニュアンスで使われます。婚約中に浮気をする行為は、注意義務違反の典型例といえるでしょう。 ただし、例えば相手が「既に婚約が解消されたと思っていた」などと主張するケースもあり得ます。
その場合、本当に婚約を解消する合意があったのか、相手が浮気をした時点で婚約関係が継続していたのかなどが争点になりますので、やり取りの経緯を示す証拠が求められます。メールやLINEの履歴、書面での合意などをきちんと保管しておくと有利です。
婚約中の浮気の慰謝料相場
婚約中の浮気の慰謝料には相場があります。一般的に浮気があったものの婚約を継続する場合は50万円~100万円が相場です。一方、浮気によって婚約を破棄したのであれば、100万円~200万円が相場とされています。
ただし、個別の状況によって慰謝料相場は変動するため、あくまで目安と捉えておきましょう。
慰謝料を請求する手順
慰謝料を請求する場合は次のような手順で進めていきましょう。
- 婚約の証拠を集める
- 不貞行為の証拠を集める
- 浮気相手について調査する
- 相手と話し合う
- 調停や訴訟を申し立てる
婚約の証拠を集める
まず行うべきは、婚約が存在していたことを証明するための証拠を整理することです。結婚式場の予約票や結納の写真、家族や友人との会話記録などが有力な材料となります。
これらの証拠が不十分だと、そもそも婚約関係ではなかったと相手に主張される恐れがあり、慰謝料請求自体が難しくなります。日程や費用、指輪のやり取りについて、領収書や契約書などの客観的な書類をきちんと保管しておくのが大切です。
不貞行為の証拠を集める

次に大切なのが、不貞行為の具体的な証拠です。典型的には、浮気相手とのLINEやメールの文面、ホテルに出入りする写真や動画、SNSのやり取りなどが挙げられます。
証拠収集にあたっては、違法な方法で証拠を得るのは厳禁です。 違法に得た証拠は裁判所で証拠能力が否定される可能性があるばかりか、取得した側が逆に違法行為として責任を問われるケースもあります。したがって、証拠集めは常に適法な範囲で行うことが必須です。
婚約中である証拠を集めるのに対して、不貞行為の証拠を集めるのは難しいでしょう。そのため、探偵に調査を依頼するのがおすすめです。探偵に調査を依頼するメリットは次のとおりです。
- 証拠収集にかかる時間を短縮できる
- 法律に配慮して証拠を集めてくれる
- 調査終了後の調査報告書も証拠になる
- 調査終了後に専門家を紹介してくれる
証拠収集にかかる時間を短縮できる
探偵に不貞行為の証拠収集を依頼すると、自分で調査する場合よりも時間を大幅に短縮できるメリットがあります。専門家の経験やノウハウを活かして、浮気の日時や場所を正確に特定し、効率的に証拠を押さえられるでしょう。
さらに、探偵独自の調査網や技術を利用することで、必要な情報を短期間で集められるため、悩んでいる期間を最小限に抑えることが可能です。自分で尾行や張り込みを行う際の手間やリスクを軽減できる点も大きいでしょう。
法律に配慮して証拠を集めてくれる
探偵に証拠収集を任せる大きな利点は、法律を遵守した調査が期待できることです。違法な手段で得た証拠は裁判で認められない場合があるうえ、こちらが責任を問われるリスクも生じます。しかし、探偵は必要な許可や法的知識を備えており、プライバシー侵害などの問題を回避しながら調査を進めてくれるので安心です。
正当な方法で収集した証拠は裁判でも証拠能力を認められやすいため、大きなメリットといえます。
調査終了後の調査報告書も証拠になる
探偵が作成する調査報告書は、不貞行為の有無を客観的に示す重要な証拠になります。日時や場所、写真などが時系列で整理されているため、裁判や示談交渉で大きな説得力を発揮するでしょう。特に、第三者の公正な視点で記録された内容は、浮気の裏付けや信憑性を高めるうえで非常に有効といえます。自分でまとめた資料より証拠能力が高まり、交渉を有利に進められるのが魅力です。
ただし、写真が不鮮明である、日時が曖昧であるなど、調査報告書の内容が十分でない場合は証拠として機能しません。探偵によって調査報告書のフォーマットは異なるため、依頼時にサンプルを確認しましょう。
調査終了後に専門家を紹介してくれる
探偵によっては、離婚問題や慰謝料請求に通じた弁護士や司法書士などと連携している場合があります。このような探偵に依頼した場合、調査終了後に報告書の活用法や法的手続きについてアドバイスを受けられるだけでなく、必要に応じて適切な専門家を紹介してもらえます。自力で弁護士を探す手間が省けるうえ、訴訟準備もスムーズに進めやすくなるでしょう。
問題がこじれた際には、早めの専門家対応が鍵となるため、こうしたサポートは非常に心強いです。
また、探偵によっては調査終了後にカウンセラーを紹介してくれるケースもあります。婚約者の浮気で精神的な負担を強く感じているのであれば、カウンセリングも活用してみましょう。
浮気相手について調査する
婚約相手だけでなく、浮気相手に対しても慰謝料を請求できる可能性があります。一般的には、浮気相手が「婚約者に既にパートナー(配偶者や婚約者)がいる」と知っていながら関係を続けていた場合、共同不法行為として責任を問われ得ます。
ただし、浮気相手が「婚約者がいることを知らなかった」「相手から独身だと聞かされていた」というケースもあります。そのため、浮気相手を訴える前には、相手が婚約の事実をどの程度認識していたかを確認し、慎重に判断する必要があるでしょう。
相手と話し合う
重要な証拠をそろえたら、まずは相手との話し合いで問題を解決することを検討します。内容証明郵便などで慰謝料を請求する旨を伝え、相手が誠意ある対応を示せば、比較的スムーズに示談がまとまることもあります。
話し合いの際には、感情的になりすぎないよう注意してください。怒りや悲しみが先立つことで、誹謗中傷や脅迫的な発言をしてしまうと、交渉が決裂するだけでなく、逆に法的リスクを負う可能性もあります。あくまで冷静な態度を保ちながら、請求根拠と請求金額を明確に伝えていきましょう。
調停や訴訟を申し立てる
話し合いで解決できない場合、裁判所を通じて法的手段を取ることを検討します。家庭裁判所での調停は、裁判所の調停委員が間に入り、当事者間の合意を目指す手続きです。離婚や慰謝料問題だけでなく、婚約に関するトラブルでも調停を利用できる可能性があります。
もし調停でも合意に至らない場合は、地方裁判所への訴訟提起(民事裁判)を行う選択肢があります。裁判になると弁護士費用や時間がかかる点は無視できませんが、最終的な法的判断を得られるメリットがあります。
慰謝料請求の注意点
婚約中の浮気に対して慰謝料請求する際は次のような点に注意しましょう。
- 慰謝料を請求できないケースがある
- 慰謝料を増加する方法がある
- 慰謝料以外の損害も請求できる
慰謝料を請求できないケースがある

すべての婚約中の浮気が慰謝料請求に直結するわけではありません。例えば次のように、実際には婚約が成立していなかった場合は、法的に「婚約状態」と認められない可能性があります。
- 口約束レベルだった
- 周囲への周知がない
また、浮気といっても肉体関係があるかどうか分からない、証拠が全くないといった状況だと不法行為が立証できません。そのため、結果的に慰謝料を請求できなくなることもあり得ます。さらに、婚約者の浮気に気づいていながら長期間容認していた場合など、事情によっては請求が難しくなるケースもあるため注意が必要です。
慰謝料を増加する方法がある
慰謝料を高額にするには、以下のような事情や証拠を示すことが効果的といわれています。
- 浮気の期間が長期にわたっており精神的苦痛の度合いが大きい
- 式場キャンセル料や新居の契約金など経済的損害が明確に生じている
- 浮気相手も婚約を知っていて、積極的に背信行為に加担していた
- 原告側が浮気による精神的ショックでうつ病などを発症し、診断書がある
これらの要素を具体的に立証することで、慰謝料額が相場よりも高くなる可能性があります。反対にこうした具体的な証拠や悪質性が認められない場合は、慰謝料が低めに抑えられるか、あるいは認められにくくなるでしょう。
慰謝料以外の損害も請求できる
浮気のせいで結婚式や新婚旅行をキャンセルせざるを得なくなり、高額なキャンセル料が発生した場合などは、損害として請求できる可能性があります。婚約者が原因で破談に追い込まれた結果、金銭的な被害を被ったのであれば、浮気の不法行為と因果関係が認められる限り、慰謝料とは別に損害を回復できるケースがあるのです。
ただし、浮気が原因でキャンセルせざるを得なかったという事実関係が明確であることが必要となります。式場のキャンセル手続き日時や、そのとき浮気発覚後だったことを示すメールやメッセージ履歴などを用意することで、裁判所への説得力が増すでしょう。
婚約中の浮気の慰謝料を請求するなら証拠を集めておこう
婚約中の浮気でも、法的要件を満たせば慰謝料を請求できます。まず、結納や式場予約などの事実で婚約成立を示し、不貞行為を裏付けるメールや探偵報告書などを確保しましょう。
浮気が原因で結婚式のキャンセル料など実損害が生じた場合、その費用も請求できる可能性があります。話し合いで解決できなければ調停や訴訟を検討し、探偵との連携を活用すると安心です。早めに探偵に相談しておけば証拠収集がスムーズに進むでしょう。
さらに、精神的苦痛が大きい場合は診断書を用意するなどして、適切な補償を受けられるよう準備しておくことも大切です。トラブルを避けるためにも、冷静な対応を心がけましょう。